先照寺

先照寺は富士宮市大中里に所在する曹洞宗の寺院で、山号を広国山と称する。創建は南北朝時代の永徳四年/至徳元年(一三八四年)、富士山本宮浅間大社の第二十三代大宮司・富士成時を開基とする。もとは真言宗であったが、純白融清により曹洞宗に改められたと伝えられる。

この寺を語る上で欠かせないのが、富士大宮司家との関係である。開基・成時の代から元禄時代まで約三百年にわたり、先照寺は富士家の菩提寺として歴代当主の葬儀と供養を担い続けた。日蓮宗諸寺が勢力を誇った大宮の地において、大宮司家の帰依を受けたことで有力な曹洞宗拠点として発展したのである。寺内には第二十一代大宮司・富士直時の位牌が「初代」と記されて安置されており、富士家が直時をもって家の実質的な祖と見なしていたことを物語る。

元禄五年(一六九二年)、第三十四代大宮司・富士信元が先照寺から離脱して新たに宝積寺を建立したため、菩提寺としての役割は移った。かつては多くの末寺を抱える大寺であったが、明治の神仏分離や時代の変遷を経て、現在は静かな佇まいの中に富士家三百年の記憶を伝えている。

浅間大社の華やかな社頭から少し離れたこの寺に、大宮司家の人々が眠り、祈りを捧げてきた歳月がある。富士山信仰の歴史を、神社の側からだけでなく菩提寺の側から眺めることのできる、貴重な場所である。